農業体験2

生活共同者

10の歳の差のあるカップルが働きに来るという報告を受けた。一人一人の作業負担が減じるのと、新しい風が吹くことを期待していた。

男性は23歳で細身の長身、顔は青白く眼鏡を掛けていておよそスポーツ、屋外、肉体労働からはかけ離れた印象だった。実際にインドアの活動が多く、ゲームが趣味だと言っていた。

ゲーム内のチャットがきっかけで交際することになった2人は、女性のアパートで同棲をすることになった。その男性N君は県を跨ぎカバン一つで出てきたと言った。

一方女性の方は中学生の頃、テキ屋でアルバイトをしていたという。その当時の面影をどことなく残しているのは、会話の調子、内容からで、外見からは想像できなかった。

カップルの口論

二人が働き始めて二日目、その日は朝から雨が降っていた。標高1200メートルの環境は、前日にTシャツ1枚で過ごしていたのに、翌日には唇を紫にしてガタガタ震えるようなことが、お盆を過ぎたあたりから起こり得る。短い夏、肌感覚では春が終わり突然冬が来る。

カップルの女性Gちゃんは共同スペースであるキッチンで朝の準備をしている時、「雨が降っているのに仕事あるんですか?」と不満を漏らしていた。

寝泊まりをしている拠点から畑までは車での移動になる。場所によっては15分離れた畑もあるので、トイレの度に拠点へ戻ってくることは許されていない。それでもGちゃんは畑の側の茂みで要を足すことがどうしてもできなかった。それに車の運転もできない。仕方なくカップルで拠点まで戻ることを何度か認めていた雇い主も茂みで要を足すように説得にかかった。Gちゃんの答えはノーである。

壁の薄い部屋

雨の降る中寒さに震えて過酷な肉体労働を終えたカップルは部屋に入るなり仕事を続けるかどうかの相談を始めた。

「ねえ、ここ超やばくない?」

「ああ、確かに辛い」

そうして始まった話し合いは意見の相違から口論に発展した。

N君は残ると言い Gちゃんは帰ると言っていた。

 

雇い主曰く、これまでの経験上カップル、友達同士、赤の他人に関係なく、ここで働き共同生活をしていると必ず喧嘩が起きるらしい。労働が辛くて余裕がなくなり、針の落ちた音でも、箸が転がってもマイナスの感情が膨れ上がっていき、その感情をぶつけて発散できる場所を目の前の相手に見つけるからである。

 

続く......